探偵ブログ

対象者VS探偵 怒涛のカーチェイス

 

S県某所、僕は人気のないパチンコ屋の駐車場で仲間と作戦会議をしていた。
もちろん、あと一時間後に開始する浮気調査の作戦会議だ。別の調査員が担当していた案件で、何度も調査をしていた対象者Aに警戒されているという曰くつきだ。かなり気が重い。

土曜日の朝、対象者Aが霜の降ったアパートの駐車場から白いセダンに乗り込むと発進しだした。今までの調査から得た事前情報によると駅前で浮気相手と合流、車を駐車し電車で何処かに行くとか。
多少の警戒はあったものの調査は滞りなく進んだ。Aと浮気相手の逢瀬を見守り証拠を撮る。Aが帰路につき、自宅アパートの駐車場に入ろうとするのを待ち構えていた時、最悪の事態に陥った。調査開始と同じ場所に車を停めて待ち構えていたのだ。これがまずかった。

対象者Aの運転するセダンは駐車場に入らず、自然ドキュメンタリーで観る肉食動物のようにジワジワと距離を詰めてきた。一瞬何が起こっているのかが分からなかったがすぐに気づく。

 

尾行がバレた。


こちらの車両ナンバーと顔写真が目的だろう。カメラを構えてひねっていた体を運転席に戻すとすかさずアクセルを踏み込む。Aの白いセダンも続いて加速する。2台分のタイヤのスキール音が住宅街に激しく響いた。2台は住宅街を抜けると大通りに出る。片側3車線、普通道路を疾走。エコカーとしての使い方を完全に間違えたプリウスのうなるエンジン音を聞きながら、バックミラーに映り込む白いセダンを撒こうと必死で前の車を追い抜きアミダ走行を繰り返す。環状族の気持ちも分かってきた。

しかし現実は非情だ。信号機の赤いランプと渋滞からは逃げられない。真後ろにべた付けされてしまった。どうせ今頃ナンバープレートの写真でも撮っているんだろう。その手は小刻みに震えている。何とかしなければ……そう思った矢先、目の端右手にスーパーの駐車場があった。ゆっくりと発進しだす渋滞の列、駐車場から軽自動車が出てきたその時、ハンドルを切ると対向車の隙間、軽自動車と駐車場のフェンスの車一台分の隙間を走り抜いた。駐車場に入ると入り口反対の出口から出る。バックミラーのセダンは渋滞の列に組み込まれたように動けない。

勝った。しばらく運転し大型パチンコ店の駐車場に車を停めると、自分の体の変化に気づいた。全身に異常な量の油汗をかき、手は震え目は充血しきっている。脳内のアドレナリンが大量分泌されたようだ。はたから見れば薬中だ。追われる側の気持ちを味わういい機会になった。

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